「愛煙家vs嫌煙家」の終わりなき戦いについて

2012年の厚生労働省調査による日本人(成人)の喫煙率は20.7%(男性34.1%、女性9.0%)。個人的には「半分くらいは吸ってる」ような気がするので、その印象よりは少ない数値だが、調査では30代男性の喫煙率は09年まで軒並み50%以上、12年でも43.2%はあるのだから、まあ20〜40代が多いコミュニティに属していれば前述のぼんやりとした印象もあながち間違ってはいないのか。

細かい数値はともかく、大衆を二分する習慣があれば、当然軋轢が生まれる。そう、愛煙家と嫌煙家の戦いだ。
とはいえ、喫煙者のなかにも「本当は辞めたい」という”愛”煙家ではない派もいるし、逆に非喫煙者のなかにも「本当は吸いたいのにしぶしぶ辞めた」或は「別に好きでも嫌いでもない」といった”嫌”煙家ではない派もいるので、喫煙/非喫煙の習慣がそのまま「愛煙家vs嫌煙家」の図式にはならない。どちらかと言えば、「嫌煙家」の最前線の動向には、非喫煙者の大多数も付いていけないような印象がある。
その証拠に、と言っていいのかどうかは分からないが、Googleに「嫌煙家」と打ち込むと、予測検索ワードの上位に「うざい」「死ね」「異常」「バカ」と出てくる。まあここまで攻撃的なワードが出て来ると、逆に「嫌煙家の最前線を攻撃する愛煙家の最前線」の過激さにも、喫煙者の大多数は付いていけないだろうが。

嫌煙家の最前線」の典型例として、ちょっと前に話題になった『日本禁煙学会』という団体が公開した『映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて』という要望( http://www.nosmoke55.jp/action/1308kazetatinu.html )が挙げられる。恐らくこの文中にもある「からだに悪いことがいろいろある中で、タバコは、今の日本で最も人の命を縮めているから」という主張が、嫌煙家の最も大きな大義名分なのだろう。これに対して、愛煙家側はよく「タバコの健康被害は医学的には証明されていない」という反論を行う。確かに実際の追跡調査ではタバコ以外の外的要因を全て同じにした比較はできないし、単純に「肺癌による死亡率」などの数値からは喫煙習慣との優位な相関は得られないとする分析もあるようだ。
結局明確な根拠がないまま双方が感情的に攻撃しあう泥仕合になることも多く、そういう論戦の”最前線”を他所に、社会は粛々と分煙が進んでいるのが事実だろう。

前掲の要望書に関しては世間的に「世界に誇るジャパニメーションジブリ作品の芸術表現に、荒唐無稽なケチをつけた」的な扱いをされている気もするが、個人的にはそういう意見があることを知らしめるのは意義があるし、いいことだと思う。別に上映中止を申し入れた訳でもないし、意見表明と今後への要望ならば(だよね?)構わないんじゃないかと。特に賛同する気もないけど、鬼の首を取ったように叩くのもスマートじゃないと思ってますよ。

ちなみに私自身は、「非喫煙者だけど他人が喫煙するのもあまり気にならない」派。以前は花粉からハウスダストまで種々のアレルギーが酷くて、タバコの煙も目や喉に響くから「なるべく御免被りたい」派だったが、東京から札幌に転居してすっかり良くなったので気にならなくなってきた、という状況。麻雀プロ→テレビ業界という経歴のせいか(或いはそうでなくても)周囲は喫煙者ばかりだからもういい加減慣れたし、「タバコの味がするキスはむしろ好き」派でもある。聞いてねーよ。
タバコに関する問題については、幼少時からいろいろ思うところがある。例えば以前は電車のホームも喫煙可能だったので、昭和の頃はトング的な金属の器具(あれ何て言うのかね?)で落ちてる吸い殻を拾うためだけの清掃員が駅構内を巡回していたものだ。小学生の頃は幼な心に「彼らを雇う費用が運賃に乗っているとすれば、喫煙者は運賃高くしろよ」ぐらいに思ってたのだが、これが高校生ぐらいになると「一人あたりにすれば微々たるコストで雇用を生み出してるならば、別に悪いことじゃないかな」「ってかそもそもタバコ買う時点で税金いっぱい払ってるし、むしろ喫煙者の方が経済回すのに貢献してるわ」と思うようになったり。いろんな問題が集約されてて面白いよね、タバコについては。

そんな私が(どんな私だ)、「愛煙家vs嫌煙家」の戦いに現在思うことはただ一つ。
健康被害の証明とか、経済への貢献とか、そんなことは実はどうでもいい。吸ってる人間は吸わない人間に対して、1ミリでもいいから『申し訳ない』と思えばそれで解決するのに」ということだ。

極論すれば、タバコはハナクソであり、ウンコである
嫌いな人には匂いがきつくてたまらない、そうでなくても匂いが残るのは事実。
体液のついたゴミを、紙に包みもせずに放置するのは吸い殻ぐらいのもの。人の家や公共の場でガムを噛んだカスやハナをかんだ紙を拡げて放置する人はいないが、唾液のついた吸い殻は平気で放置する。
口に入れるとヤバい、食べた場合の致死量はむしろウンコよりタバコの方が少ない。

副流煙健康被害とか、どうでもいい。「臭い」「体液がついている」「毒性がある」ものに対して、人が嫌悪感を持つのは当然なのだ。自分が気にならないからといって、それを他人に押し付けるのは鈍感すぎる。
だからといって、非喫煙者もタバコを吸うのを理由に喫煙者を遠ざけることがないのは言うまでもない。体臭がきついとかよく唾を飛ばすとかを理由に友達関係の縁を切ることはないように、個性の範疇として我慢できる(というほどの意識もなく、普通に許容する)のは当然だろう。ただ、体質とか体型とかでなく、選択できる習慣として喫煙することを選ぶならば、それが及ぼす影響を考慮して、それによって迷惑を掛けるかもしれない人・その後始末をするであろう人に対して「ごめんね」っていう態度を、ほんの少しでいいから見せるのが重要だと思う。たったそれだけのことを全ての愛煙家・喫煙者がやってくれれば、きっと泥仕合になることはないはずなのだ。

人の家でタバコを吸って、吸い殻を置きっぱなしで帰るのは、人によってはウンコを流さずに帰るくらいの所業になり得るのだ。でも帰るときに一言だけ「あ、吸い殻そのままでいいかな?」的なことを言ってくれるだけで、その後片付ける際の心理的負担は一気にゼロになる。
別に食べカスでもコーヒー飲んだ食器でもなんでも一緒なのに、「心理的負担」とか大袈裟だわ、と思うでしょう。でも毒性があるから灰皿は食器とは同じスポンジでは洗えないし、いろいろ気を使うから特に普段吸わない人にとっては負担な訳ですよ。ただただ、人として「手間掛けてごめんな」って顔をして欲しい、それだけです。

ホントに簡単なことだと思いますよ。